SEN 新和人さん 編集後記
2023.04.26
春の陽気、太陽の日差しが少しずつ暑く感じてくる。初めて足を踏み入れる土地を歩くのにもぴったりな気候の午後だった。そんな気候がよく似合う大阪の街。
新大阪から電車を乗り継いで、中崎町駅で降りる。どこか風変わりな喫茶店や、歴史を感じる建物、行列ができているカフェ。独特な存在感のある通りを歩いていった先に、ガラス張りの扉で開放感の溢れる建物(それもまたここでは存在感がある)が、今回取材をさせていただいた新さんの働くサロン、SENである。
ここでもまた“春の陽気がよく似合う”新さんが出迎えてくださった。
新さんは、事前取材の際に、「着飾っていなくて、生活にフィットするヘア」を意識しているとおっしゃっていたことを思い出す。その「生活」とは、よりパーソナルな部分に焦点を当てたものであり、その人が譲れないものや大切にしているもの、実は密かに思っていることなんかも含まれているのだと思う。その中には、その時々の気分も含まれるかもしれない。そんなことを聞き出したり感じ取った上で、「自分だけのスパイス」を少しだけ入れてみたりして、少しずつ相手と自分のリズムをつくっていっているのかもしれない…と新さんは話していた。
リズムの作り方や、距離の縮め方は必ずしも「言葉」だけで行うものでもないんだろうな、と改めて新さんの姿を見ていて感じたりした。新さんは、「言葉でうまく伝える」ことが自分の課題だと言っていた。それは逆の見方をすれば、人の気分や気持ちを感じ取ることに長けているのだと思うし、だからこそ考えて発せられた言葉に必ず「優しさや誠実さ」が感じられるのだ。
取材中も自分が普段何気なく使っている言葉に対して、これはどういう意味なんだろう…と自問自答する姿も印象的だった。そんな優しくあたたかい新さんが「自分が決めたことは絶対に諦めたくない。」という信念を持っていることも、意外なようで意外でもないように感じた。絶対に譲れないものや、芯がある人だからこその優しさや、そうやって放たれる言葉は心地よく、相手の心にフィットする。
無機質でスタイリッシュだけれど、光がたっぷり入って暖かく明るいSENの店内が、新さんのしっかりした一つの芯と、その周りを暖かい光が包んで外にも優しく放っている姿に似ているようだな、とふと思ったりもした。
今回のお客さまの施術に関しても、そんな新さんの姿がよく感じ取れた。
新さんが担当する前まではずっとマッシュヘアだったお客さまが、実は「ウルフヘアにしてみたい」という気持ちがあったことを知り、少しずつウルフヘアをつくってきたのだという。そして今回はというと、新さんが似合いそうだと思っていた「動きがあるショートスタイル」にすることになった。心の中にそっとしまっている「実は……」をうまく引き出して、少しずつスタイルを作りながら、自分が「これも似合いそうだな…」と思うものも少しずつ取り入れていくことで、信頼関係も少しずつ築いていくんだろうなと思う。お客さまとの誠実な関わり方が垣間見えて、「着飾っていなくて、生活にフィットするヘア」がどうやってつくられるのか、新さんの言葉の外の優しさを体感できた気がした。