ヨーラ Yola
2020.02.06
このところ若い世代のミュージシャンが1970年代辺りの音楽を再評価、あるいは再発見する動きが世界的に目立ってきています。今回紹介するヨーラもその一人です。彼女は1983年、イギリス西部のブリストルで生まれ、家庭はそうとう貧しかったようです。母親が医者か弁護士を目指して欲しいと言って、音楽の道は絶対にだめと拒否していたために彼女は十代の頃こっそりと家を出て仲間とライヴをやっていたといいます。
でも、音楽が儲からないというお母さんの考えが間違っていないことが分かり、ロンドンに移ったもののしばらくはホームレスになり、ストレスのために声も出なくなった時がありました。
最初はソングライターとして活動して、他人のレコードでバック・ヴォーカルも務めました。その後短い間マシヴ・アタックのメンバーにもなりましたが、ソロの道を選びました。
ソロになりアメリカのナシュヴィルでやったライヴのヴィデオを、ブラック・キーズのダン・アワバックがたまたま見ました。それまで長く続いた彼女の苦労が報われ、2019年にプロデューサーとして次々と話題作を手がけているアワバックのレトロなサウンドのデビュー・アルバム『ウォーク・スルー・ファイア』を発売。
70年代のソウル・ミュージックでは、特に南部のナシュヴィル、メンフィス、マスル・ショールズなどで制作されたものにカントリー・ミュージックの要素が強く感じられる作品が多かったです。その古典的なサウンドの最盛期は70年代半ばまでで、その後ディスコの時代になり、80年代以降はヒップホップが主流になったので、今はかなり懐かしい感じがします。しかし、その懐かしさはぼくの世代が感じるもので、ヨーラ自身もその後に生まれたので、どうやってこんなスタイルの曲を作るようになったか興味があります。アルバムに関してはダン・アワバックをはじめ、アメリカのソングライターと共作した曲が多く、曲自体、編曲、音作りなどの面でしっくりくるアルバムですが、何と言っても本人の歌が心に響きます。エモーショナルではありますが、感情の抑え方が逆に印象的です。
今年のグラミー賞では新人賞の他、ベスト・アメリカーナ・アルバムにもノミネイトされているし、「Faraway Look」という曲はベスト・アメリカン・ルーツ・ソングとベスト・アメリカン・ルーツ・パフォーマンスの候補にもなっています。
現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。
著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側』(岩波新書)『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマニ』(NHK出版)などがある。
2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magic(https://www.livemagic.jp/ )のキュレイターを務める。