LIKE IT! HAIR CATALOG JP THE ERCOMMENDED Vol.20 / POST
贅沢なとき間の流れを体験できる洋書店
恵比寿の喧騒から奥まった住宅街にある海外アートブック専門書店「POST」。出版社くくりでセレクトされた洋書が並ぶ、ニュースタイルを感じるこの書店が、今回のリコメンダーであるHEARTSのスタイリスト・江良友規子さんのお気に入り。店主・中島佑介さんと交わす、本、アート、そして世間話が面白い。そんな接客も魅力のお店です。
店主である中島さんは、幼少期から接客を仕事にしたいと考え、大学在学中にはon Sundays(外苑前にあるワタリウム美術館のミュージアムショップ)でアルバイトをします。そのとき本に興味を持ち、卒業したら、本屋を始めよう!と決め、海外に行って買いつけをスタート。ギャラリーを借りる期間限定での古書店から始め、出版社くくりでのアートブックを発信という現在の形に辿り着きました。
洋書を買うという経験
ー出版社くくりにしようと思ったきかっけは何だったのですか?
最初は、古書だけを扱っていたのですが、海外に買いつけに行っていたときに、自分の中で出版社がキーワードになっていったのです。たとえば70年代のドイツのこの出版社の本には面白いものが多いとか。一般的に本を選ぶときって、作家の名前などを手がかりにすることが多く、出版社をキーにするというのはあまりないな、と。だから逆に、つくり手という出版社に焦点を当てることで、普段気にとめていなかった作家さんなどにも興味が出てくるのではないかなと思い、出版社くくりにしたのです。ほかにも、出版社くくりにすることで、自分自身興味がないものでも、その出版社が出しているものだという軸を持って扱える。本屋にとっての公共性みたいなものも、それによってクリアできるのではないか、と。
ー洋書を買うという行為はハードルが高いと思うのですが、どのように自分好みの1冊を見つけていけばいいのでしょう?
普通の本屋さんって、背表紙が並んでいて、自分がどれを好きなのかわからないような状態ですよね。でも、平置きになっていたり、企画性を持って紹介されているようなコーナーがあると、興味のあるものだったら、見てみることになるでしょう。作家や美術的背景にとらわれずに、色がキレイくらいの興味から入っていく感じでいいのではないかと思います。あとは、店主の色のある本屋さんも増えていると思うので、その店主を信頼して、そこで紹介されているものを入口に洋書の世界に入る、そんな感じがいいと思います。とにかく1冊買ってみる。一度対価を払ってみる。そこがスタートなのではないかと思います。
ー私たちは作品撮りをして、写真をプリントすることもある、紙の質感や印刷の風合いで洋書を選ぶことが多いのですが、それでいいのでしょうか?
普通の本屋さんって、背表紙が並んでいて、自分がどれを好きなのかわからないような状態ですよね。でも、平置きになっていたり、企画性を持って紹介されているようなコーナーがあると、興味のあるものだったら、見てみることになるでしょう。作家や美術的背景にとらわれずに、色がキレイくらいの興味から入っていく感じでいいのではないかと思います。あとは、店主の色のある本屋さんも増えていると思うので、その店主を信頼して、そこで紹介されているものを入口に洋書の世界に入る、そんな感じがいいと思います。とにかく1冊買ってみる。一度対価を払ってみる。そこがスタートなのではないかと思います。
ー(2冊を見比べながら)本当ですね! 温度感も全然違う。
お店は静かな空間ですが、こんなふうに普段もスタッフに話しかけたり聞いたりしてもいいのでしょうか? いつも少し遠慮してしまって。
もちろんいいです。たとえば、漠然と「こういう色のものを探している」とか「この作家さんに似ている作家さんはいませんか?」とか、そういう感じで聞いていただければ、ご紹介できるので、どんどん聞いていただきたいと思います。
ーうれしいですね。やはり、私はヘアやメイクも一貫して楽しめるものが好きなので、ティム・ウォーカーとかスティーヴン・マイゼルが好きなのですが。
そうすると、ギー・ブルタンとかもお好きですか? 最近、絶版だったのが再版されましたよ。
ーそうなのですね! (ギー・ブルタンの写真集を手に取り)もう、表紙から可愛い!
注目のブックデザイナー
ーほかに、中島さんのおすすめは、どのようなものですか?
オランダにイルマ・ボームというブックデザイナーがいるのですが、彼女が手がけた本は素晴らしいと思います。彼女がデザインした本のコレクターがいるくらい。彼女は本の特性をとてもよく理解した上で、素材を選んだり、より作品のコンセプトが伝わるデザインをしています。仕上がった作品はカラーで見せて、その作品の制作プロセスではラフな紙に印刷して、見せたいコンセプトに合う素材をチョイスし混ぜることによって、過程をよりよく見せるデザインになっているのですね。
日本ではデザイン=表現のようになってしまっていますが、デザインというのはそれを使って、どのように“翻訳”するかだと思うのです。たとえばですが、僕がTHE TOKYO ART BOOK FAIR(のディレクター)をさせてもらったときにまずやったことが、サイン(ロゴデザイン)を変えることだったのです。ただ目立つということではなくて、どういう活動をしているのかのコンセプトに基づいて、可視化するということが、すごく大事なことでした。そこをちゃんとやったことで、間口を広げることにつながったのだと思っています。本来デザインというのは問題解決のためにあるべきことで、表現とは違うと思っています。
ーすごくわかります! 美容師の世界でも、デザインというと突拍子もないものをつくることだととらえられてしまうことも多くて。もちろん、斬新なスタイルを提案することも髪型のデザインのひとつだとは思うのですが、私はやはり、髪質や骨格に合わせて、コンプレックスを美しさに変えることがデザインすることだと思っています。
言葉の力を考える
ーこのお店に、日本語での説明がないのには、何か意図があるのですか?
言葉って、それによって伝わることもありますが、考え方を固定化してしまう部分もありますよね。なので、固定化しないで感覚的なレベルで「これいいな!」と思うものをあとで言語化していくほうが、理解としては早いのではないかな、と。僕は論理的だと思われがちなのですが、どちらかというと感覚的なほうでして(笑)。言葉にすると論理や計画性があったように見えるかもしれませんが、結果的にそうなったという感じです。そして「これいいな!」という感覚を言語化&ルール化してでき上がったのが、このお店です。本についても、その作家さんを知らずにいいと思ったものは、なぜいいと思ったのかを言語化するようにはしています。そうやって言語化したものを、接客する中でお伝えするのが自分の仕事かなと。
ー私たちも接客をする仕事ですが、どんなことに気をつけていらっしゃいますか?
人を見て…ですね。話しかけてほしくないという様子の方には、話しかけたりはしませんし。本の話はもちろんしますが、世間話をしに来てくださるお客さまもいらっしゃるので、そういう方とか積極的に世間話をするといった感じです。相手が話したいときに話しやすい雰囲気をつくるのも接客です。接客のお面白さって、話をしてその人に新しい価値観を与えられる仕事だというところですよね。
ー出版不況などといわれている今、本の未来をどうお考えですか?
出版に限らず昔からの体制に固執していると淘汰されてしまうのが現在だと思います。若手で新しい本の提案をしている人がいたり、印刷物としての特性をきちんと理解して出版をしている人がいたり、スモールビジネスではありますが、きちんと評価につながってきているものも生まれてきていると思います。また、電子書籍が出てきたことで、実際に本という物質あるものの存在価値は何なのだろうか? と、本に携わっている人たちが考えているところなので、これからより面白い本ができる環境が整いつつあるのではないのかなと感じています。今は個人でつくった本も、世界に発信できるプラットホームがあるので、本という形を通じての表現は広がっていくと思っています。
中島佑介(なかじま・ゆうすけ)さん / POST(limArt Co., ltd)店主
4日間で2万人を集客したことで話題となった
THE TOKYO ART BOOK FAIRのディレクターとしても活躍。
<告知>
11月13日までPOSTでは、デンマーク・コペンハーゲン発のアートマガジン「PLETHORA MAGAZINE」を展示。この雑誌は、70×50㎝という雑誌の概念を覆す規格外のポスターサイズ。さらに記録的文章から慎重に吟味しながら、現代芸術家を取り上げる異色の編集内容。ファインアート、ヒンドゥー教寺院の伝統的な印刷技術に対する深い情熱から生まれた出版物です。今回の展示では、すでに絶版となっている1号から最新号の4号まで、すべてがそろいます。世界のクリエイターから注目を集まる本誌を、ぜひ会場にてご覧ください。
POST
住所:東京都渋谷区恵比寿南2-10-3-1F
TEL:03-3713-8670
営業時間:12:00-20:00(定休日:月)
www.post-books.info